木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

チップEVとICMと現実的な期待値見積もり

https://kihara-poker.hatenablog.com/entry/2018/03/20/150007

https://note.com/kihara_poker/n/n825dcbbfabda

 

バブルファクターに関する記事は過去にいくつか書いてきました。

 

そこで質問を貰って、確かに面白い話だなと思ったので、詳しく色々書いてみようと思います。

 

https://twitter.com/CHIYO_de_poker/status/1283678514449838081

https://twitter.com/CHIYO_de_poker/status/1283679077505761281

 

まず、アベレージ付近の期待値を、

「残りの賞金÷人数」

と見積もることの是非ですね。

 

100ドルトーナメントで500人参加。50人残り。70位から200ドルの賞金が確定してて、次の賞金上昇は45位としましょう。

プライズプールは50000ドルで、既に14000ドルが配られています。なので、残りの賞金は36000ドル。

ここで、確率的にはほぼあり得ないことですが、50人全員が初期スタックの10倍のチップ量だったとしましょう。

すると、残っている人の期待値は全員一緒なので、一人あたりの期待値は、

36000÷50=720ドル。既に確定している200ドルを入れるなら、920ドルが期待値です。ここまでの話に異論がある人はいないでしょう。

 

もし賞金が優勝者総取りなら、チップ期待値がそのまま賞金期待値になります。

しかし、現実的には賞金はもっとなだらかになります。ポーカーはゼロサムゲームなので、賞金がなだらかになることで得する人と損する人が出てきます。

得する人は、ショートスタックです。順位が上がったら賞金が上がりますからね、優勝しなくても。逆に損する人はビッグスタックです。すぐ飛ぶ心配がほぼない状態なら、しばらく賞金が上がらない方が得ですから、逆に言えば賞金の階段があるということはビッグスタックにとって損なことです。

 

ではアベレージスタックはどうでしょう。

50人残りで全員アベレージという状況から、20人がアベレージの半分(スタートチップの5倍)、20人がアベレージの1.5倍(スタートスタックの15倍)という状況を考えて見ましょう。

次の階段まで到達出来る可能性は、全員アベレージのときと比べてあがるでしょうか、下がるでしょうか。

ショートが増えるので階段まで上がりそうな気もするけど、でもオールイン負けしたら飛ぶという人自体が減ります。全員アベレージなら、オールインが入ったらチョップじゃない限り基本的に誰か飛ぶけど、ショートとビッグスタックなら、ビッグスタックが勝たないと飛ばないので。

うーん、得か損かわからないですよね。ってことは、アベレージ持ちなら、残りのチップ分布が平たくても差が開いてても、そこまで期待値的に変わらないと言えそうです。

ってことは、アベレージ持ちなら、期待値は

「残りの賞金÷人数」

としてそこまで誤差はないということになります。

 

では、ショートスタックの期待値はどう見積もるのが良いでしょうか。

アベレージの3割の人がいたとします。

賞金分布がなだらかであることで、アベレージ持ちの3割より高い期待値があります。これはICM的な期待値です。この数字は、賞金分布がなだらかであればあるほど高くなるし、賞金の階段が近くにあれば高くなるし、他の人のチップ分布によっても若干影響があります(ダントツチップリがすごいチップを獲得していれば高くなる)。なので、一般的にいくらとかは絶対に計算出来ないのですが、ただアベレージ(720ドル)の3割(216ドル)よりは高いのは間違いないです。

具体的にいくらと言われると難しいですが、一般的な賞金分布だと、イメージ的には3割だと216ドルの15%増しくらい(248ドル)でしょうか。アベレージの10%(72ドル)なら、3割増しくらい(93ドル)とか?アベレージの7割だと504ドルよりわずかに高い520ドルとかでしょうか。まあ、数字はざっくりです。

 

ところで、MTTではアンティがあります。アンティの存在によって、ドショートはチップEVが見た目のEVより高くなるのです。

https://kihara-poker.hatenablog.com/entry/2020/05/18/124150

 

一方、チップのICM的な期待値がチップEVより高いということは、高いバブルファクターを受けているとも言えるので、相手からオールインされた時の必要勝率が、チップEVより高いのです。5bb持ちで降りたら4bb。コールしてダブルアップしたら12bbだとして、チップ的には3倍になるから33.3%の勝率で良いけど、ICM的には38%必要、とかになるのですね。上の補正の○割増のボーナスが減るのです。

ドショートだと、いずれにせよ一回はオールインに勝たないと階段の賞金上昇すら見込めないので、BBでチップEVプラスの勝負をしたりすることになりますので、ここの部分でICMから更にプラスの補正をすることになりそうです。

一方アベレージ半分とかなら、チップが減った時にそういうドショートであるプラスの期待値が得られることと、現状で高いバブルファクターを押し付けられてチップEVが若干損してしまうことの両方の要素があって、チャラくらいとするのが良いのではと思います。ターボMTTなら、ショート側はよりドショートのメリットを享受する可能性が上がり、長いMTTならショート側はBF押し付けによって損する部分が増えそうなので、これはストラクチャーにも依存しますね。

 

 

まとまりがない長文記事になってしまいましたが、MTTでどうやって現状の期待値を見積もるかという話でした。