木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

ICMとはそもそも何か

過去の参考記事

note.com

 

kihara-poker.hatenablog.com

 

kihara-poker.hatenablog.com

 

過去にも、ICMとかバブルファクターについての記事を書いてます。

でも、そもそもICMって何?という話を書いたことが無かったので、書いてみたいと思います。

後編では、ICMの限界について書きたいと思います。

 

ICMとは、Independent Chip Modelの頭文字を取ったものです。

例えば、残り4人。チップ量がAさん40%、Bさん30%、Cさん20%、Dさん10%だったとしましょう。

賞金は、100ドル、70ドル、50ドル、35ドルとします。

その時、それぞれのプレーヤーの期待値はいくらでしょうか?

多い人の方が期待値が高いだろうことは分かるものの、厳密には答えようがないのです。

野球で言えば、バッターが打ったボールが(風を考慮して)どこに飛んでいくか、ピッチャーが投げたボールがどういう変化をしてどこでミットに納まるか、などは、実は厳密には答えようがないものなのです。

ではどうするか。すごく簡単な仮定を置いて無理やり計算するのです。

・ボールの縫い目は一つ一つ違うけど、平均的にどういう縫い目になっているか。

・風は渦を巻いたり、場所や時間によって違ったりするのを全く無視して、右の方向から秒速3.2メートルでずっと吹いているとして計算する。

などです。

現実世界はめちゃくちゃ複雑です。そんな複雑なものを、

「影響が小さいものを無視して、影響が大きいものだけを残すようにして単純化した世界」

のことを、modelと呼ぶのです。

 

ICMだって、このMはmodelなのです。ではICMが考える簡略された世界とはどういう世界なのでしょうか。

・優勝確率はチップ量に比例する

・2位の確率は、それぞれの優勝者を決定したのち、残りの人のチップ量に比例する

・それを3位以降についても同様に考える

 

という世界(model)なのです。

具体的に考えていきましょう。

冒頭の、チップ量がAさん40%、Bさん30%、Cさん20%、Dさん10%の例です。

 

優勝確率は、そのチップ量通りですね。

では2位の確率は?

Aさんが2位に入る確率は、

「Bさんが優勝してAさんが2位に入る確率」+「Cさんが優勝してAさんが2位に入る確率」+「Dさんが優勝してAさんが2位に入る確率」

になりますよね。

 

Bさんが優勝する確率は30%。

 

***ここから計算が続くので、苦手な人はしばらく飛ばしてOKです***

 

残りの70%のチップのうち、Aさんは40%を持っているので、Bさんが優勝してAさんが2位に入る確率は

0.3×(0.4/0.7)=6/35です。

同様に、Cさんが優勝、Dさんが優勝の場合を考えると、それぞれ

0.2×(0.4/0.8)=1/10

0.1×(0.4/0.9)=4/90

これを全部足すと、Aさんが2位に入る確率が計算出来て、それは31.6%ほどになります。

 

同様に、Bさんが2位に入るのは、

0.4×(0.3/0.6)+0.2×(0.3/0.8)+0.1×(0.3/0.9)

=0.2+0.075+0.033

=30.8%

 

Cさんが2位に入るのは、

0.4×(0.2/0.6)+0.3×(0.2/0.7)+0.1×(0.2/0.9)

=0.133+0.085+0.022

=24%

 

Dさんが2位に入るのは、

0.4×(0.1/0.6)+0.3×(0.1/0.7)+0.2×(0.1/0.8)

=0.067+0.042+0.025

=13.4%

 

小数点以下を切り捨てたりの関係で99.8%になりますが、まあこういう数字になります。

 

じゃあ3位の確率は?Aさんだけ計算すると、

0.3×(0.2/0.7)×(0.4/0.5)+0.3×(0.1/0.7)×(0.4/0.6)+0.2×(0.3/0.8)×(0.4/0.5)+0.2×(0.1/0.8)×(0.4/0.7)+0.1×(0.3/0.9)×(0.4/0.6)+0.1×(0.2/0.9)×(0.4/0.7)

=24/350+2/70+0.06+1/70+2/90+8/630

=18.4%

 

 

・・・・

計算が大変なので、自分はやらないですが、興味ある人はそれぞれ計算してみてくださいw

 

 

***ここまで飛ばしてOK***

 

そして、その計算した順位に応じて賞金を分配していく。

Aさんの賞金期待値は、1位40%、2位31.6%、3位18.4%、4位10%になり、

100×0.4+70×0.316+50×0.184+35×0.1

=74.82ドル

 

となるのです。

 

この計算方式を見ていて気付きませんか?

そう、ICMというモデルでは、

・誰と誰がぶつかったら飛ぶのでプレイがどう変わる

・この人とぶつかって負けたらショートになるので、オールインをコールしづらい

という実践のポーカー要素を一切考慮に入れてないのです!

続編の記事では、ICMを使ったナッシュ均衡プレイと、それが本来のプレイとどうずれてしまうのか、という点について書きたいと思います。

 

 

 

まとめると、ICM(independent chip model)とは、それぞれの順位に入る確率を、

・優勝確率はチップ量に比例する

・2位の確率は、それぞれの優勝者を決定したのち、残りの人のチップ量に比例する

・それを3位以降についても同様に考える

というルールに基づいて決定するというmodelのことである。

 

ICMとは、順位を決定する時に、誰とぶつかったら飛ぶかなどを全く無視した順位決定のmodelである。

 

 

ここからは私見ですが、ICMとは順位を決定する際のmodelに過ぎず、その計算方法としてはビッグスタックとぶつかったら飛ぶという要素を全く無視するmodelであるにも関わらず、賞金上昇を意識してプレイが変わることを

「ICMの影響で」

「ICMを考慮して」

と呼ぶのは極めて不当な呼び方です。

BFの影響でBFを考慮して

と呼ぶのが正しいです。

海外のトッププロも、ICM下ではとかICMの影響で、という言い方をしているけれども、それは数学に明るかったり、用語の定義を正確に知っていなくてもポーカーのトッププロになることが可能であって、影響力があるトッププロたちが誤用していることで誤った使い方が広がっているのが現状だけども、自分はそれには断固反対していきたいと思ってます。