木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

ゲームのプロを目指す人は進学をすべきか

将棋の世界では以前は

「プロ棋士を目指すなら、中学を卒業したら高校進学せずに将棋一本で行くべきだ」

という考え方が主流でした。

それが大きく変わったのはいわゆる「羽生世代」の活躍です。

先崎先生以外は揃って高校に進学しました。

特に最近復調していて、50歳を迎えたにも関わらず竜王戦の挑戦者決定戦を戦っている丸山先生は早稲田大学に進学しています。

高校に進学してもその後の活躍にはなんら影響はない。そういう考え方が主流になったのです。

 

では大学はどうでしょう。

今の30前後でタイトルを取った人たちで言えば、広瀬八段と中村太地七段が早稲田大学、糸谷八段が大阪大学大学院。

豊島竜王、永瀬二冠、菅井八段、斎藤八段は大学には進学せず(もし間違いがあったらツイッターで指摘してください)。

ここは色々分かれそうです。

ただ、このメンバーは、高校生のうちにプロ入りしているか、高校卒業してすぐにプロ入りした人たちだらけではありますが。

 

*9/18注:永瀬二冠と菅井八段は高校中退で、年齢的には高校生の時にプロ入りだけど、実際は中退後にプロ入りとの情報を頂きました。

*豊島竜王は大学中退とのことです。

 

 

以前遠山六段が

「朝、妻とケンカをした日は、対局で殆ど勝ってない」

とブログで書かれてました。

ゲームのプロって、非常に小さな差を突き詰めて考えていかないといけないので、非常にメンタルが大切になります。これは本番でもそうだし、練習に関してもそうです。

むしろ練習においてのほうが、ある意味もっと重要かもしれません。時間が長いので。

 

結果が出続けている時は、大学に行く時間でもっと本業の研究したりプレイをしたりした方が良い、と思うのです。しかし、

「退路を断つ」

というのは、集中する上で一見良いように思えるかもしれませんが、調子が悪いときのメンタルに非常に大きな悪影響を与えてしまうのです。

ゲームを真剣にプレイしたことがない人には分からない感覚だとは思いますが、いつもと同じように体調を整えて、睡眠時間を取って、同じような時間にプレイしても、良いプレイをしっかりし続けることができる時と、なぜか悪いプレイをたくさんしてしまう時があるのです。

これが2,3週間から2,3ヶ月の間で周期的に来るんですよね。

この波の調子が悪い時、大学とか別にやるべきことがあると、メンタルは本当に救われます。やるべきことが他にあるというだけで救われるのです。単なる気晴らしというレベル以上に。

一方、本業一本に絞っていたら、この調子が悪い時に途方に暮れるのです。

「自分は他に何もせずにこのゲームばかりやっているのに、このゲームでなんでこんなに成績が出せないのだろう。このままだったら自分の存在価値はないんじゃないだろうか」

と。このときの黒い気持ちはなかなか強烈です。そして、この黒い気持ちが心にある時は、スキルが伸びることは殆どないのだと自分は思うのです。

 

自分は大学を卒業して2ヶ月後に、絶不調の時期が来ました。自分はかなりメンタルが強い方だと自分でも思っているし、多くの人にも思われていると思いますが、それでもこのときのメンタルはなかなかキツかったです。在学中はこういうことは無かったんですよね。多分、調子が悪い時はちょっと多く寝て大学の課題をこなすことで気が紛れたのでしょう。というより、他にやらないといけないことがたくさんある時は、調子の波がそもそも小さかった気がします。

それでも自分は大学を卒業していたし、いつでも塾の講師をすれば食っていけるという保障はあり、塾の先生はとても楽しかったので、まだなんとかなったという面はあったと思います。

 

確固たる自信がつくと、この波はまた小さくなります。自分はタイトルを取ったことで自信になったわけではないです。

WSOPのタイトルを取ったのは2012年ですが、この自信がついたのは2014年後半でしょうか。

 

 

 

ポーカーが楽しくてしょうがない。だからもっと時間を費やしたい。なので、大学(もしくは仕事)をやめてプロを目指したい。

こういう話はよく聞きます。

しかし、本業(学業でも仕事でも)を持ちつつ勉強してプレイしていても、十分に強くなれるし、それで強くなれないならそもそも才能が無いです。

副業としてポーカーをやり、それで収入的にも十分やっていけるだけの中長期の結果を出して、生活していける確証が出来てからでも、本業を辞めるのは遅くないです。

 

将棋のプロ棋士を目指して、結局プロに成れなかった人はたくさんいます。

それなりの割合の人は、大学に行かずに将棋の勉強にコミットした人のはずです。

しかし、大学に進学していた方が三段リーグを突破する確率が高かった、という人はそれなりに居たんじゃないかなと思ったりもするのです。

羽生九段、渡辺名人(三冠)、藤井二冠のような中学生棋士は、ある意味この世界でやっていくことが確実にできることが確約されたような存在です。そういう人は確かに大学に行く時間は勿体ないと思うのかもしれません。

しかしゲームのプロは非常にメンタルが重要なゲーム。大多数の人にとっては、メンタルを維持できる環境を作ることが、プロとして成功するための近道なんじゃないかなと自分は思うのです。そしてこのことは、将棋、囲碁、ポーカー、その他のゲーム、全てに共通することじゃないかと思います。