木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

ケリーの公式2:億り人という概念の無意味

kihara-poker.hatenablog.com

 

こちらの記事の続編です。

投資の世界では、株式投資で資産1億円を作った人を

「億り人」

と呼び、億り人は結構敬意を受けるそうです。

しかし、個人的にはこれ、非常にどうなの?と思うわけです。

 

仮に100万円を口座に入れて、1億円にする。

これって、高々100倍なんですよね。

言ってみれば、WSOPメインイベントに出て、5万点スタート。そのチップ量が途中経過で500万点になりました。その人は強い?と聞かれても、

「平均よりは強い可能性が高いけど、それをもって強いと認定するのは無理」

と思うのです。

ぶっちゃけ、100人に1人は100倍に出来てもおかしくないわけで、株式投資の市場はバカでかいので、ある月に10000人が100万円を口座に入れ、それを全員が100倍オアナッシングの賭けをしたら、100人は億り人が出るわけです。

 

100万円を口座に入れて、ケリー基準をきっちり守って運用したとすると(そもそも結果が2つしかないものにしかケリー基準は当てはめられないので、厳密には基準は計算不能ですが、見積もった基準という意味で)1,2年で100万円が1億円になることはまず無理です。だって、前回の記事で、50分の1で資産が100倍になるような、ROIが100%もあるような超利益的な投資でも、基準上では1%が最適とされるのです。100万円が口座に入っていたら、1万円。

 

しかし一方で、本来のケリー基準が求める前提条件では、このお金が無くなったら即終了、言ってみれば、100万円が無くなったら即死亡してしまうような条件での投資の最高効率を計算するものです。

つまり、その100万円が無くなったら再入金するという条件なら、100万円を全体の資産とみなした運用はリスクを取らなさ過ぎているとも言えるのです。

仮に100万円を口座に入れる人の生涯収入(手取り)が2億円だとし、無理すれば人生トータルで1億円を生活費以外に回せるとしましょう。そこそこ良い収入の職の人ですが、普通にいるレベルでもあるでしょう。

その人は、無理すれば人生トータルで1億円を投資に回せます。

すると、100万円を口座に入金したとしても、ケリー基準における資産は1億円とみなして投資することが正当化されるべきだと思うのです。

つまり、口座に入っている金額を基準にすると一見無茶苦茶な額の運用をしているように見えて、口座残高がそれなりにゼロになる程度のリスクを取ることは、それが期待値プラスの運用である限り、ほぼ正当化されるのです。

仮に100倍オアナッシングのベットをしているとして、その人が50分の1で100倍になる有利な投資をすることは基準を満たすのです。

また、実はケリー基準とは、その基準を超える金額を投資してはいけないというのではなく、それを超えると長期的に見て基準どおりでの投資に比べて資産の増加が遅いというのが正しい理解なのであって、一切投資しないよりはずっと良いのです。

繰り返しますが、期待値がプラスの投資をしている場合に限ります。

 

生涯で1億円を運用する人が50分の1で100倍になる賭けに100万円を50回賭けたとすると、63%の確率で億り人になれます。

基準的には許されないけど、仮に100分の1で100倍になる賭け(期待値イーブン)に50回賭けたとしても、39%ほどで億り人になれるのです。

 

なんか、すごく簡単な感じがしませんか?

どうしてこうなるのか、それは、100万円を1億円にしたと聞くと非常にすごいことのように見えますが、資産管理の基準をしっかり守っていると、1,2年で100万円を1億円にするなんて不可能です。

100万円を口座に入れる人は、多くの場合、生涯で1億円(3000万円でも2億円でも人によるけど、例として)を元の資産として投資したとして計算すべきです。

でもこれって、

「100万円を1億円にした」

のではなく、

「1億円を2億円にした」

とみなすべきなのです。確かに口座に入れた金額は100万円だけだったかもしれません。でも、そういう運用が出来るのはもっと大きな金額がバックにある前提なのです。

 

1億円を2億円にした人がいるとします。

大金ですし、そういう結果を出した人を100人集めたら、結果を出していない人100人集めるより、集団としてみたらずっとずっと上手い集団であることは間違いないです。

 

世界で一番美味しい大会と言われるWSOPメインイベント。参加費は1万ドル(110万円)。これに出る人は、敗退したらすぐに首をつらないといけないという人は皆無でしょう。

こんな高額参加費の大会に毎年7000人も出るのです。スタートの時点では相当ぬるいフィールドです。残り1000人になったら入賞で、15000ドルが確保されます。スタートよりはかなり強い人率が上がりますが、この時点ではまだまだ弱い人がたくさん残ってます。

残り70人(全体の1%)になった時はかなり平均のスキルは高いです。とは言え、残り70人に入った人は絶対に強いと言い切れるかというと、決してそんなことはありません。

また、残り9人のファイナルテーブルに入ると100万ドル(1.1億円)以上の賞金が確定します。勿論、平均的にはかなり強いですが、弱い人がファイナルに残ることも多々あります。100万円を全員が0か1億円にするわけじゃないので、こっちの方がより近似として近いかも。

ポーカーをやっていると、このことと億り人の話は非常に同じようなものに感じるのです。