木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

なぜ麻雀AIは強くならないのか

世の中にあるある程度以上メジャーなゲームは、ほぼAIが人間のトップを確実に凌駕しました。

1990年台にオセロ(リバーシ)、チェスからスタートし、2000年前後にバックギャモン。2013から2014年頃に将棋、2016年に囲碁

ポーカー(ノーリミットホールデム)はというと、2017年にヘッズアップで人間が負けたのが記憶に新しいところです(記事を書かせていただきましたし、ブログでも紹介しました)。6マックスのノーリミットホールデムは、多分世界トップクラスでしょう。ただし、超えているかどうかは微妙だと思いますが。

 

一方、麻雀は爆打を見るしかありませんが、現在の最強AIの一つである爆打の通算成績は特上卓(麻雀サイト天鳳での上から2番目のテーブル)で、安定段位6.55。

しかしこれは、最新のバージョンだけでの数字ではないので、実際はもうちょっと強いかと思いますが、それでも7を超えているとは思いにくいです。

(実はこの記事を書こうと思って調べるまでは、7を超えているのかと思ってましたが)

AIは鳳凰卓(最高テーブル)で打つことを許されてませんので単純な比較は出来ませんが、人間のトップと思われている人たちは鳳凰卓で安定段位9弱を出していますので、条件をどんなに爆打に有利にしても、人間のトップに近いところにいるとすら言うことは出来ないと思います。

 

囲碁や将棋が既に人間のトップより遥か遠くまで強くなってしまっているのに、なぜ麻雀AIはそんなに強くなっていないのでしょうか。

 

 

AIが人間を超えたと断言出来るには何が必要でしょうか。

2017年の人間トップ対AIのヘッズアップ勝負では、4人のプロが3万ハンドずつプレーし、12万ハンドをこなしました。

1人のプロが微負けで、他の3人は大敗。トータルでも大敗でした。

ところで、3万ハンドと言いますが、仮に1時間で100ハンドずつこなしたとしましょう。すると、3万ハンドは300時間です。これクラスのプロなら、ライブキャッシュゲームを打てば時給1000ドルは超えるくらい稼ぐ人たちです。すると、この勝負を成立させるためには、1000×300×4人で120万ドル、1億3000万円以上を用意しないと成り立ちません。実際は対局料で30万ドルくらいで引き受けてもらっていますが、これはプロ側がかなり妥協した数字とも言えます。その結果、当時のヘッズアップの世界トップ3と言われていた人からは、1人(その人が微負けで終わった人)だけで、残りの3人は、将棋で言うところのBクラスプロ、という感じの人たちでした。

もちろん、そのプロたちをそこまで負けさせるのはトップの人間ですら無理だと思うし、2017年にヘッズアップで人間トップが負けたと認めないわけではありませんが。

 

ヘッズアップが終わったのなら、次は6人テーブルでしょう。

ところで6人テーブルなら、降りているハンドが多いため、ハンドあたりの上下は下がります。なので、12万ハンドより多くのハンド数を必要とするでしょう。

一方、人間5人対AI1アカウント勝負なのか、人間3人対AI3アカウントなのかはわかりませんが、いずれにせよ必要なギャラは3倍以上になります。また、降りている待ち時間もかかるので、1ハンドあたりにかかるので、実際はもっともっとかかります。

そして、その結果として

人間1・・・+200

AI1・・・+150

AI2・・・+100

AI3・・・+50

人間2・・・ー200

人間3・・・-300

という結果に終わったとして、分散を考慮しないとしても、それはAIが人間を超えたと言えるのでしょうか。

つまり、多人数ゲームだと、人間を超えたと評価するハードルが非常に高いのです。その上、どんどん対局料が必要になります。また、運の要素がある程度以上強いので長期間やりつづけないといけないため、興業としても成り立たせにくいのです。

 

同様の問題は麻雀についても言えます。

そして、AI開発側が、そんな困難を乗り越えてでも人間のトップを超えたと宣言させたいほどのモチベーションはどこにあるのでしょうか。

ポーカーなら、動いているお金がそれなりに大きいため、まだ分かります。とは言え、AIを起動させながらプレーすることはオンライン・ライブともに禁止ですので、法的リスクを侵さない限り、勉強のツール以上でも以下でもありません。

麻雀は、強いAIを作ったところで、それを利益化するのが至難なのです。

 

将棋は、電王戦という注目される場があり、多くの個人開発者が集まりました。

電王戦の賞金だけじゃなく、将棋で名人に勝つということはプログラマーとしての大きな名誉と知名度にもつながります。

囲碁は、GOOGLEが自身の開発力の誇示のために目をつけ、ゆっくりだった進歩を一気に加速させました。

 

もし、GOOGLEが本気で麻雀を攻略しようとしたら。

ゼロから作ったとしても、将棋のアルファゼロを見る限り(ルールだけ教えて、GOOGLEディープラーニングを走らせたら72時間で日本の最強AIを超えたという話です)、自分は1ヶ月持たないと思います。

多人数ゲームであろうと関係ありません。むしろそういう複雑になる要素は、人間のほうが扱うのが難しいのです。

 

しかし、良くも悪くもポーカーや麻雀は、誰が誰より強いかというのを可視化するのが難しいゲームです。だからこそここまで人気が出ていますし、これだけスキル要素が大きいにも関わらず、ポーカーはカジノゲームとして存在可能なのです。