木原直哉オフィシャルブログ

プロポーカープレーヤー、木原直哉が、思ったことを書いていきます。道場やってます。https://lounge.dmm.com/detail/308/

スローロールからみた、マナー論

某所でとある話題のついでに出たライブポーカーのマナーについて。

日本ではポーカーが知られるようになったのは非常に最近ですし、ポーカーは最初から、完全なゲームとしての立ち位置を獲得しています。

その事自体は、自分はすごく嬉しいことだと思います。

将棋は羽生さんが1996年に7冠を取ってメディアにたくさん登場するまで、しっかりとしたプロ組織があったにも関わらず、ギャンブルのイメージが拭えないものでした。今の人からすると、

「え?そうなの?」

と思うような話だと思いますが。

先崎9段が、文春に連載していたコラムで

「若い頃は職業を聞かれたら編集者と答えていた。将棋のプロ棋士などと答えたら、胡散臭いと思われて女性にモテないから」

と書いてました。

今なら、将棋のプロ棋士と聞いたら、トップクラスにモテそうな職業ですよね。

 

 

麻雀は、依然としてギャンブルのイメージが消えません。

その点、現状の知名度こそ小さくて、普及の意味合いで苦労しているポーカーですが、日本ではそういうイメージは無いのは幸いだと思っています。

一旦ついたイメージは、羽生さんの登場のような大きな出来事がないとなかなか消えないんですよね。

 

で、ポーカーの本場、アメリカでは、知名度こそ非常に高いものの、未だにギャンブル的な印象は拭えません。

ポーカープロというイメージは、ちょうど日本の麻雀プロと将棋のプロの中間のような感じでしょうか。

「ポーカーは実際にお金賭けてるからそりゃそうだろ」

という指摘があるのは分かるけど、証券会社に勤めることはどうなの?とか思うわけですが、そこは今回の投稿とは別の話なのでおいておきます。

 

 

で、ポーカーの話。

リバーで3人がポットにいます。

Aがチェック、Bがチェック、Cがチェック。

ショウダウン(手を見せ合うラウンド)。

ルール上はAからハンドを見せます。Aは弱そうなハンドを持っているような素振りを見せます。

ここで、Bがナッツ(そのボードで最強の手)を持っていたとします。

ゲームや競技的な側面から見たら、ポーカーは情報戦でもあるので、Aのハンドを見てからBは手を開けるのが自然です。

しかしこのような、勝っているのが分かっているにも関わらず、相手が手を見せるのを待ってこちらが手を見せる、この行為を「スローロール」と呼び、ポーカー界ではやってはいけない最悪のマナーの一つとされています。

 

同様に、こちらがナッツを持っています。

相手がオールイン。

そこで1分考えてコール。

これも「スローロール」と呼ばれます。

 

ポーカーは元々、マフィアがたくさん出入りするようなバーなどで行われていた、お金を賭けた勝負。

そして、Aはマフィアのボスだとします。

あなたはBだとして、Aがハンドを開けるのを待ってから、絶対負けはないと分かっている最強の手を見せるでしょうか。

もちろん、Aが見せる前にハンドを見せますよね。

相手がマフィアのボスじゃないにせよ、相手はお金を失うことがこちらは分かっているわけです。それなのに、使う必要がない時間を使って、敗者を貶める行為、死体にむち打つような、KO負けを喫した相手を更に殴るような行為、だとされていて、その名残がマナーとして今でも残っているのです。

 

これ、知らずにアメリカでやってしまうと、本当に揉めます。相手を間違えると、殴られてもおかしくないのです。

 

 

 

ちなみに、今ポーカーをやっている人の95%は知らないと思いますが、昔はチェックレイズはルール上はOKでも、マナー違反でした。

 

「は?」

と思った人、多いのではないでしょうか。

 

「チェック」とは弱いハンドを意味する。なのに弱い素振りをしてレイズするなんて失礼な!

という感じです。

今でこそ笑ってしまうような話ですが、アメリカのポーカールームの壁に貼ってあるルール表には、かなりの割合で

「チェックレイズはOKです」

とわざわざ明文されてます。

そのうち無くなるかもですが、チェックレイズは本当にマナー違反だったんです。

じゃあチェックレイズしたかったらどうするの?と言うと、1bbをベットします。

ベットすれば、レイズに打ち返したとしても、

「ベットしたじゃん!」

と言えるわけです。また、1bbをベットすることで、レイズするかもしれないよと見せて相手を牽制するのです。

 

 

まあ、将棋でも、昔は

「待ち駒は卑怯」だとかありましたよね。

相手の王様の逃げる先に予め駒を打つことで逃げ道を塞ぐ、というめちゃくちゃ当たり前のプレーですが、それすら「卑怯」との名前で許されなかった時代があるのです。

もちろん今はそんなマナーはありません。

 

でも、残っているマナーはあります。

「勝った時に喜んではいけない」

これは相撲でもたまに問題になったりします。よく考えると、勝った時に喜びを表現してはいけない決まりなんて無いはずですよね。ボクシングで勝った人がガッツポーズをしたり、競馬で勝った人が手を高くあげたり、オリンピックのどの種目でも一緒ですが、勝った喜びを表現することを批判されたりは(少なくても今は)しません。

 

本来、喜びを表現するなというのは、ルールなんてなくて、明文化されていないマナーなわけです。

でも、敗者を思いやる気持ちから、喜びを表現すべきでないと今はマナーとしてなっていて、またそれをしっかり守っている人はカッコいいとされます。

でもそれは、ポーカーで勝った場合に当てはまってもそんなに不自然じゃないんじゃないかなと思うのです。なので、スローロールをしないことは、それと同じようなマナーなんじゃないかと思うのです。

 

 

 

***個人的には、(ナッツでオールイン対して長考は流石にどうかと思うけど)情報戦の観点からみると、相手のハンドを見てから見せるというのは許されても良いと思うし、将棋で勝ったほうが喜びを表現しても良いと思います。ただ、現状どういう風にとられるかを書いた投稿です。